一本の糸
衣服点で働くサトコは、誰ともわからない衣服を修繕する仕事をしていた。
ある日、一本のジーンズがやってきた。
直そうとしたが、青いジーンズに合う糸が無くて赤色を使うことになった。
ジーンズをサトコが直している間、持ち主のトオルは1人で公園を散歩していた。
トオルは普段美容師として働いており、その店にはよくミサが来ていた。
ミサはスナックで働いていて、公私ともに彼のお世話になっていた。
ミサがお店で働いているとき、コウジはかならず彼女を指名した。
コウジは妻とも別れ、寂しさからミサを指名することが多かった。
コウジは普段公園でクレープを焼いていて、その味は評判だった。
ミサはクレープの話をコウジから聞いていたので、友だちのサトコと一緒にちょくちょく通っていた。
サトコもクレープにはまり、休みの日に1人で買いに行くぐらいはまっていた。
ある日、サトコが公園へクレープを買いに来たときだった。
「……あっ」
サトコがクレープを買っていると、ジーンズを履いた男が近づいてくるのを見つけた。
そのジーンズには見覚えがあった。
あの日、合う色が無くて赤い色で縫ったジーンズ。
「えっと、僕の顔に何かついてます?」
サトコはおかしくて、つい笑ってしまう。
トオルはわからなかった。
わからなかったけれど、悪い気はしなかった。
「一緒に、いいですか?」
サトコはにっこりと、クレープを渡しながら答えた。