心のない男と、心を持つアンドロイド・2
ベランダから部屋に戻り、私は乾いた喉をいやすため冷蔵庫へ向かう。
中には水と長期保存できる食べ物しか入っていない。
チーズやベーコン、納豆、ジャム……。
生活に必要なものだけで、それ以外のものは入れない。
それが、私の信条だった。
ペットボトルに入った水を取り出して、口にしようとしたとき。
玄関のほうからチャイムが鳴った。
昼時に誰だ?
私のところに来るのは、編集関係の人間か宅配業者ぐらいだ。
どの業者の人間も、事前に私への連絡があるはずだ。
今日は何の予約も聞いていない。
私は不審に思いながら、玄関に向かってドアスコープを覗く。
そこには、小学校高学年ぐらいの、キャップ帽をかぶった子どもがいた。
私に気付いたのか、しきりに「すみません」と声を上げている。
無視しようか、と思った。
しかし、私が考えている間も少年は「すみません」を繰り返していた。
周りから変な噂を立てられてもまずい。
私はドアチェーンを開けて、少年と対面した。
ビクッ、と体を震わせる。
何とも少年らしい反応だな、と思った。
まるで「そのような反応をすることが人間だ」と、誇示するように反応していた。
「どうしたんだい?」
私の質問に、少年は口をまごまごさせながら答えた。
「あの、ベランダでタバコ」
「なに?」
「あっ、いえ……。あの、ベランダでタバコ、吸っていましたよね?」
この少年、1階から20階にいた私を見つけたのだろうか。
しかも、タバコを吸っている私を。
少し気味悪く思いながら、私は生返事をした。
「そのとき、灰を落としましたよね」
少年はポケットから、丸く包められたティッシュを取り出した。
ティッシュを丁寧に広げていくと、タバコの灰によってくすんでいた。
しかし、どのようにして灰など集めたのだろうか……。
地面に落ちるか、もしくは空中にある灰をかきあつめることなんて、普通の人間には不可能だ。
では、目の前にいる少年は、普通の人間ではない。
と、すれば……。
「お前、アンドロイドか」
私の質問に、少年はおどおどしてキャップ帽を目深にかぶる。
私はため息をついて、次第に状況がわかってきた。
こんな少年を私の前に送るのは、編集者と宅配業者以外では、あいつしかいない。
「近くにいるんだろ。そろそろ出てきたらどうだ、早乙女」
to be continue