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ここだけのはなし

10人見れば、10通りの解釈がある。日常にてふと思ったことを自分なりに綴ります。

線路は続かない、どこまでも・3

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3・

 

俺が立っている駅のホームは市内と郊外をつなぐのが主な役割となっている。

 

ホームには3つの線路があり、それぞれの方向に向かって伸びている。

 

俺は反対側のホームから電車に乗るので、向こう側に渡るため地下通路につながる階段を下りて行った。

 

階段を下りるごとに、こつんこつんという音が通路内に響き渡る。

 

誰もいない、そして冷たい空気が地下通路には張り付めているのがわかる。

 

下まで降り切ると、正面階段と左手に道が伸びている。

 

俺は左を向いて、反対ホームへと向かい出す。

 

すると、反対側から誰かが降りてくる音が聞こえてくる。

 

階段か降りてきた人は、夏だというのにフード付きの服に、ジーパンを履いていた。

 

ジーパンはともかく、フード付きの服は長袖で、見ているこちらが暑くなってしまう。

 

俺はその人を見ないようにして、できるだけ目を伏せながらホームへ歩いていく。

 

しかし、人間というのは「いない」や「見ない」と意識するほど、「いる」や「見たい」という気持ちが湧き出てくるものである。

 

「ない」と意識するのは、「ある」と意識するよりも気持ちとしては強いものがある。

 

これは、人の拒絶の気持ちと同じなんだと俺は思う。

 

人は何かのものに対して「ない」と意識してしまう。

 

じゃあ、それで自分にとって「ある」ものが見つかるかといえば、割りとそうでもない。

 

人は「ない」ことを意識してしまうと、その「ない」ことばかりを考えて、本当は自分に「ある」ものまで排除してしまう。

 

否定の気持ちは否定しか生まないのに、人は「ない」ものをどうしてか考えてしまう。

 

そして今の俺も、まるで憑りつかれたように人が「いない」と意識してしまっていた。

 

「おにいさん」

 

俺は突然の声にギョッとする。

 

目の前には、先ほどまで俺が「いない」と意識していた人がいた。

 

フードは目ぶかまで被っており、どうしても顔を見ることはできなかった。

 

目の前にいるのに、なぜか相手の顔を見ることはできなかった。

 

「どうしてそんなに驚いているんですか?」

 

声からすると男っぽい。

 

俺は後ずさりしようとするが、その前に思い切り右手をつかまれる。

 

フードの人はもう片方の手で、ジーパンのポケットからナイフを取り出す。

 

俺は声も出なかった。

 

出そうとしたときは、すでに喉元が熱くなっていた。

 

がふっ、と咳と共に大量の血がこぼれだす。

 

俺は膝から倒れ込み、喉元に手を当てるが血が止まるわけがない。

 

「すまないな」

 

俺は最後に、自分を切りつけた犯人の顔を確認しようとする。

 

しかし、すでに目はかすんでしまっていた。

 

薄くなっていく意識の中で、俺の耳だけが機能する。

 

「だが今回の死因は、お前にあるんだ」

 

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